侍の座り方所作~正座・跪座~

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今回は武士の座り方の中でもよく使われる正座と跪座(きざ)の所作を丁寧に紹介いたします。
私達も行う機会のある正座ですが、武士を演じるには正しい所作が求められます。

武士たるもの、いかなる時でも構えを崩してはなりません。
それは、座っている時でも、座った状態から立つというような時でも必要とされるのです。

正座と跪座

1-1.正座について

正座は、説明するまでもなく、現在でも日本人が姿勢を正さなければならない場合の座り方ですよね。
時代劇でも侍達は正座をしている印象は強いと思います。

しかし実はこの正座が世間に広まったのは江戸時代初期からだと言われています。
日本の古来から行われていた座り方だと思われがちなのですが、実は違ったのですね。

正座がいつから始まったのかは諸説ありますが、三代将軍家光の江戸城の将軍拝謁の時には大名達が正座をしていたとされ、この頃には武士の作法に取り入れられていたようです。

その後江戸中期の畳の登場によって正座がしやすくなり、庶民にも広まったと言われます。また、正座は脳が活性化する姿勢であるそうです。

正座をすることで全筋肉の緊張が理性や記憶を支配する新脳を刺激し、頭の回転が良くなったり集中力が増したりする効果があるそうです。
そのため、事務仕事をする下級武士が事務能率を上げるために正座を始め、それが広まったとも言われています。

1-2.正座の作法

正しい正座の作法は、まず足は親指だけを重ねます。
昔は、男子は左上、女子は右上とされていましたが、今はどちらでも構わないようです。

両踵はなるべく離します。
踵を揃えてしまうと、踵の上にお尻が乗り、体重を踵で受けてしまうために痺れが早く来てしまいます。

膝の頭は、男子は拳一つ分開き、女子は開かずにつけます。

手は自然に太ももの上に、肘を張らずに置き、指は開かないようにします。

肩は落とし、背筋を伸ばして、ゆったりと呼吸をします。

座った状態から素早く刀を抜く居合道では、すぐに動きに移れるように、
正座をしていても地面に重心をだらりと落とさず、少し浮かせて足の親指も重ねないようにすると教わるようです。

1-3.跪座(きざ)

跪座は、「正座から立ち上がる」などの動きが伴う行動に必要とされる姿勢です。
足の指先を立てて両膝をついて、上体を両踵の上に軽く置いた座り方です。

ここでは踵を開かないように揃えます。
踵が開いてしまうと重心が落ち込んでバランスが崩れてしまいます。

上体を伸ばし、手は太ももに自然に置きます。
跪座の姿勢は足の指先が利かせられるようにすることが大切で、足先が踵より内側になるようにします。

その状態から足首を柔らかく使うことで上体を揺らすことなくスッと「即立ち」「即座り」が出来ます。

長い時間正座をしていると足が痺れて、立つ時によろよろしてしまいますが、立つ時に一旦跪座の姿勢を取ってから立つと、よろけることなく立つことが出来ます。
指を曲げることによって痺れの原因である収縮を伸ばすことになり痺れが取れます。

跪座は、座っている人に物を進めたり、障子や襖の開閉など出番の多い姿勢なので、出来るようにしておきましょう。

2.正座と跪座の所作

2-1.跪座から正座になる所作

跪座から正座になるというささいな動きでも、正しい所作が求められます。
大切なのは、武士たる者、正座の時も跪座の時も構えを崩してはならないということです。

跪座で正しく背筋が真っ直ぐに出来ていても、正座に移るわずかな動きで身体が前後に揺れてしまっては構えが崩れてしまいます。

跪座から正座に移るにはまず、上体を太ももとお尻の筋肉で支えた状態から、右足爪先を伸ばし、次に左足爪先を伸ばして親指を重ね、踵の上に静かにお尻を置きます。

正座から跪座になる場合には、静かに上体を浮かし片方ずつ爪先を立てます。
腰を浮かせる時に跪座の姿勢の腰の高さまで浮かしますが、太もも、お尻の筋肉、腹筋を使って上体が前後動しないよう静かに美しく行いましょう。

2-2.正座から跪座となり、立つ所作

跪座から立つ、また立った状態から跪座になるには、即立ち、即座りが理想です。
身体を前後に振って反動をつけて立つと美しい所作とはなりません。
反動ではなく、筋肉を正しく使い、足首の柔らかさが求められます。

正座の状態から美しく立ち上がる所作を見てみましょう。

まず正座の状態から、腰を伸ばしながら片方ずつつま先を立てて跪座となります。
下座の足に力を入れて腰を切りながら前に踏み出していきます。
この時、体の構えを崩さないために、踏み出していく足の指先は他方の膝より前に出ないようにします。

そして、腰を折らないように胴体を浮かしていきます。
胴体を浮かせながら、踏み出した足に後ろの足を揃えていき、完全に足が伸びると同時に踵が床に着き、両足を揃えます。

即立ちをするには稽古が必要で、慣れてきたら徐々に踏み出す足を狭めてスッと立ちましょう。

2-3.立った状態から跪座となる所作

立った状態から跪座になる時もやはり、前後に体を揺らした反動を使うことのないようにしましょう。

女子の場合は着物の裾を乱さないように半歩踏み出して座ります。
男子は袴のさばきのために半歩引いて座ります。
半歩とは、足幅の半分くらいです。

座り方でも重心の安定が大切で、自分の中心が天井の線で吊られてその線に沿って沈んでいくイメージで真っ直ぐに下ろしていきます。
胴体を下ろして膝が曲がっていくと重くなっていきますが、腹筋や大腿筋を使って支えます。

後ろにある足の踵にお尻が着くまで下ろし、それと同時に他方の膝が床に着きます。
後ろ足の膝を腰で押すように前に進め、膝を揃えて床に着いて跪座の姿勢になります。

常にももの付け根の位置は膝より高くすることが大切です。
膝よりももの付け根の位置が高いと、腰が後ろに落ち、裾が割れて見苦しくなってしまいます。

立ちから跪座になる場合もやはり、即座りが理想ですが、静かに座ります。
雑に急いで座ると、裾風が立ち、着物に包まれている空気が裾から吹き上がってしまいます。

3.江戸時代以前の座り方

江戸時代になって正座が広まる以前の座り方をここで紹介いたします。

戦国時代などを舞台にした大河ドラマなどを観るとわかりやすいですが、武士は江戸時代以前の正式な空間では、正座ではなく、今の胡坐に近い座り方をしていました。
これは「幡足座(はんそくざ)」と言われる座り方で、

背筋を真っ直ぐに伸ばし、上座の足は爪先まで甲を伸ばし踵を股の中央につけます。
下座足をこれに添え、足首を鋭角に折って足裏を上座に向ける。

または両足の足裏を合わせて膝頭を床に着けます。
源頼朝の肖像の座り方ですね。

女性の場合は室町時代まで片足を浮かした、立膝の座り方をしていました。
この時背筋は真っ直ぐ伸ばします。
女性もかつて常に袴を着けていたのですが、時代が進み袴を付けなくなったのでこの座り方をしなくなりました。

戦国武将達は幡足座の上体から身体を前後動させずに即立ちそして即座りが出来ました。これはよほどに修練を積まないと出来ないことです。

【参考文献】

武道の礼法        小笠原 清忠

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