侍の歩き方について

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今回は、侍の歩き方を見ていきましょう。

侍の歩き方は現代人とは大分違っていました。

時代劇や殺陣で侍を演じる場合に腕を振って歩いてしまうと途端に現代的になってしまいます。
しかし時代劇の中でも、キャラクターを出すために腕を振って歩く人もいます。
作品によって演じ分けが必要ですが、ここでは侍の歩き方の基本を見ていきましょう。

1.侍の歩き方

1-1.侍の基本姿勢

歩き方の前にまず、立った状態での侍の姿勢を見てみましょう。

まず、足は平行にして着けます。つま先は開かないようにしましょう。
重心は、頭から足の土踏まずの真ん中よりやや前に落ちるようにし、やや前傾の姿勢になります。
手は、小指を伸ばして少し手のひらを膨らませるように小指と親指を近づけ、太ももの脇に置きます。

身体は楽にして胸を張らないようにしましょう。
侍は腰から歩くので、腰はどっしりと据えられていることが大事で、その上に胴、そして頭が乗ります。
頭は、頂点が上から吊られているイメージを持ち、うなじを真っ直ぐにしあごは浮かないようにします。

これが侍の基本姿勢です。
昔の人のこの姿勢が、内臓の諸器官圧迫させない正しい姿勢だと言われています。
侍には、この姿勢を崩さず腰を落ち着かせ、何事にも動揺しない心構えが求められました。

1-2.侍は腕を振って歩かない!

ナンバ歩きという言葉を聞いたことがあると思います。
ナンバ歩きとは昔の侍の歩き方です。
右手と右足を同時に出して歩くのがナンバ歩きだと思われがちなのですが、これは実は大きな誤解です。

侍の基本姿勢で述べたように膝は緩くして手が自然に太ももの脇に置くようにし、足を大きく出すのではなく、腰から前に出るように歩き、足幅は狭めに出します。
重心は常に中心に置き、頭の位置がなるべく前後左右に揺れないように歩きましょう。
ナンバ歩きとはつまり、右手と右足を同時に歩くのではなく、右半身と右足が一緒に出るのです。

ナンバ歩きは、身体への負担を最小限に留める歩き方と注目されており、ナンバ歩きを練習に取り入れているスポーツ選手も数多くいます。

現代人の歩き方は、身体をひねりながら歩き、ふくらはぎなどの筋肉を使って歩くので身体に負担がかかるのです。

それに対して、ナンバ歩きは肩甲骨、股関節を連動させて体幹を使って歩くので、重心移動も少なくなり腰や膝にかかる負担が減り、疲れにくくなります。

歴史の記録で、昔の日本人の歩き方についての記録はほとんどないのですが、浮世絵で描かれている人々はみんなナンバ歩きになっていますし、歌舞伎や相撲、古武術といった古くから伝わるものの基本の動きはナンバ歩きです。

昔の侍は、戦では重い甲冑を着けて長時間移動し戦っていなければなりませんから、腕を振って歩いていたらすぐに疲れてしまいますね。

1-3.侍の走り方と時代劇

ナンバ歩きの歩みを早めると侍の走りになります。
歩幅は大きくせず小さくし、つま先歩きのようなイメージでササササーッと走ります。
この時も、やはり重心は真ん中に置き、頭が上下しないようにしましょう。

時代劇での侍の走り方を見てみると、このような昔の侍の走り方を徹底している作品は少ないように思います。

黒澤映画をはじめ昭和の時代劇を見るとナンバに近い走り方をしていますが、時代が進みテレビ時代劇などを見ると腕を大きく振って現代的な歩き方、走り方をしているキャラクターも多いです。
登場人物を現代人に近づけた方が、お茶の間の人々が親しみやすく楽しめるという判断の演出でしょう。

武士道を重んじる本格時代劇ではナンバ歩き、娯楽性の強い時代劇では現代的な歩き方と、作品のテイストによってその歩き方も変わってくるのです。
それでもお城の中などのシーンでは必ずナンバで歩いていますね。
お城の中では特に作法が厳しいのです。

時代考証を細かく映像化した2004年の山田洋次監督作品「隠し剣 鬼の爪」では、ナンバ歩きを徹底し、また幕末の侍が現代の走り方を勉強するというシーンがあります。

幕末、東北のとある藩は江戸から講師を招き銃剣や大砲、行進といった英国式の訓練を行っています。しかし言葉も違う講師の話がなかなか理解出来ません。
中でも腕を大きく振って走る英国の走り方に苦戦します。どうしても右手と右足が一緒に出てしまうようです。
しかも可笑しくて吹き出してしまうので、カチンときた講師は、ナンバ走りと英国走りでかけっこ勝負を提案するのでした。

2.シチュエーションに応じた歩き方作法

2-1.畳の上を歩く場合

畳の上を歩く時は、畳を踏む音を大きく出さないことが作法です。

かかとの方に重みを持たせ、つま先を軽く出して歩けば、畳を踏む音も高く出ず静かに歩けます。
逆につま先だけで歩くいわゆる「ぬき足・しのび足」はよくありません。

2-2.室内での歩き方の基本・歩み足

室内での基本の歩き方である歩み足は、少し早めの呼吸で、吸う息で一歩吐く息で一歩進みます。
大体ですが、畳二枚(3メートル60センチ)の長さを、男子は7歩、女子は9歩で歩くようにします。

2-3.殿中での歩き方①ねる足

ねる足は、「おねり」とも言い、殿中の松の廊下などを大名が歩く時の歩き方です。

足幅を広く出して、深く細く長い吸う息に合わせて一歩進め、息を吐く間止まります。そして再び深く細く長い吸う息に合わせて一歩進めます。
上体はまっすぐに伸ばし、腰からももをゆっくりと大きく押し出すのがポイントです。

2-4.殿中での歩き方②はこぶ足

はこぶ足は、殿中で高い位の侍が普通の速度で歩く歩き方です。

深く細く長い吸う息に合わせて大きく一歩を出し、また深い吐く息に合わせて一歩を出します。これも上体を伸ばし身体を大きく見せることがポイントです。

2-5.殿中での歩き方③すすむ足

すすむ足は、室内で早く歩く歩き方です。
位の高い人の前を通り過ぎる時などに使います。

息を早くし、吸う息で二歩、吐く息で二歩進みます。
足幅は後ろの足のつま先が前の足の踵の位置に来るようにし、足の長さの分だけ進みます。
位の高い人の前を通り過ぎる時は上体を少し屈折させて通り過ぎます。

2-6.殿中での歩き方④走る足(わしる足)

走る足は、殿中で貴人などの前を横切らなければならない時などに使います。

すすむ足よりさらに速く、そして静かに歩きます。
吸う息で三歩、吐く息で三歩進みます。足幅は後ろの足のつま先が前の足の半ばまでです。

2-7.道で侍とすれ違う場合の作法

細めの道などで道の真ん中を歩いていて侍とすれ違わなければならない時にも作法があります。
この作法は相手の位によって変わります。

相手が自分と同格の侍の場合は、お互いに斜め左に道を譲ります。
この時、斜め45度に前の足を進め、進めた足に後ろの足を引き寄せる“送り足”を使います。
そして軽く頭を下げて挨拶をし、お互いに足を進めて再び道の真ん中に戻ります。

相手が自分より位が高い侍の場合は、道を譲って頭を軽く下げて、相手が通り過ぎるのを待ちます。
相手がずっと位の高い場合は、道を譲った後片膝つきになって頭を軽く下げ、相手が通り過ぎるのを待ちます。

2-8.道で駕籠(かご)と出会った場合

道で駕籠と出会った場合には、相手が目上の場合は右によけ、相手が目下の場合には左によけます。
前を横切ってはなりません。

いかがだったでしょうか。
見てみると、現代とはかなり違った歩き方をしていますね。

特に殿中では、様々な歩き方作法がありますね。
お城などでは特に作法が多く、時代劇でお城のシーンを演じる場合にも武家作法を学ぶことは必須ですので、参考にしていただけたら幸いです。

【参考文献】

武道の礼法        小笠原 清忠

近世武士生活史入門事典  武士生活研究会

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