日常でも使える!?武士の日本語12選!

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今回紹介するのは、主に時代劇小説に登場する、武士が使っていた日本語です。
野火迅著「使ってみたい 武士の日本語」より、「恐悦至極」や「大儀である」など、時代劇にもよく出てくる言葉を紐解きます!
日常生活で使ってみては!?

1.大儀(たいぎ)である

意味…ご苦労さん
引用文…「お迎え、大儀である。」と馬上から景勝が言った。(藤沢周平『密謀』

「大儀」には、「費用がかかる」「骨が折れる、めんどうだ」の意味でも使われますが、この例文は、何かの働きや足労をねぎらう「ご苦労さん」の意味を表します。
この言葉は目上の人が目下の人にかける言葉なので、使いたければ、部下などに使うとよいでしょう。

2.物申す(ものもうす)

意味…抗議する!
引用文…「保坂年弥どのに物申すことがある。出て来い」新三郎は怒号した。
     (藤沢周平『鱗雲』)

「一筆物申す」と使うように、「ものを申し上げる」という意味で使われますが、この場合はもっと強い、抗議を表す言葉です。
小関新三郎の許嫁は、中老のせがれ・保坂年弥にもてあそばれたあげくに自害してしまい、新三郎は怒りにまかせて保坂家に踏み込み玄関先で叫んでいます。

3.御光来(ごこうらい)

意味…「来る」の最大限の敬語
引用文…だが、近藤は、「ぜひとも、渡辺うじに御光来たまわれたし」と下手くそな文
字で手紙を書いてよこすことが多い。(池波正太郎『剣友 渡辺昇』

新撰組局長の近藤勇は、局長になる前は江戸の牛込に天然理心流の道場を構えていました。小説「剣友 渡辺昇」には、道場破りが訪れるたびに凄腕の剣友・渡辺昇に代理を頼んだというエピソードが書かれています。農民出身なのもあり武士のプライドにこだわらなかったのでしょう。
その加勢を請う手紙の中で「御光来たまわれたし」と最大限の敬語を使っています。
「光来」は貴人の来訪の尊敬語です。渡辺の剣技をよほどありがたく思っていたようです。

4.ちょこざいなり

意味…なまいきな!
引用文…前後左右からいっせいに金時めがけて打ちかかる。
    「ーやあ、ちょこざいなり、ご参なれ」山岡荘八『越後騒動』

場面は、江戸の天満宮の境内で、人形芝居が催されいるところで、劇の場面は大江山の鬼ヶ城に踏み込んだ坂田金時が、鬼達を相手に大立ち回りを演じている。
「ちょこざい」は「さしでがましいこと、なまいきなこと」の意味で、「ちょこざいな」と言い放てば「雑魚どもがなまいきな!」という勇ましい悪態となります。

5. 慮外(りょがい)な

意味…そんなこと思いもよらなかった。
引用文…千両を要求されて奥方は、「慮外なことを……」四十四歳の端正な(おもて)に怒りを浮 
    かべたが(池波正太郎『芸者変換』)

旗本の奥方が、子息の醜態に関する口止め料を要求されている場面。
慮外には、「思いがけない、意外」という意味の他に、「だしぬけ、無礼」の意味もあり、「名乗らぬとは、慮外にござろう」と言えば、相手の無礼を咎めています。
また、「慮外ながら…」とつなげることで、「失礼ですが」という意味としても使われます。

6.曲げて

意味…何がなんでも
引用文…「くどいわ。御内儀だと申したこと、まだわからぬか」
     外記の声がとがった。
    「そこを曲げて」伊三郎もくいさがった。(滝口康彦『拝領妻始末』)

笹原伊三郎は、側用人に、城中で不始末をしでかして藩主に愛想をつかされた側室を長男の嫁として拝領せよという無茶苦茶なことを命じられ、それにくいさがっている。
「曲げて」は無理なお願いをする「そこをなんとか」に当たる言葉。

7.ひらに

意味…何とぞ
引用文…「打ち留めろというのは、殿のご上意だぞ。ご指示のお手紙を読むか」
    「ひらに、ご容赦を」(藤沢周平『かが泣き半平』)

これは時代劇でよく聞く決まり文句ですね。「ひらに、お願い申し上げる」「ひらに、お聞き入れくださいますよう」など。

8.一つまいろう

意味…まずは一杯
引用文…「久方ぶりだ、一つまいろう」と安芸が云った。甲斐は辞退した。
    「人を待たせております、戻りをいそがなければなりませんので」

これはお酒の席で使う武士の決まり文句で、最初の一杯を勧める言葉です。
まだお互いにシラフでいる状態で、「まず一つ」と儀式めいたやり取りがなされます。
これは、現在のお酒の席でもありますね。「久方ぶりだ、一つまいろう」なんて、友人とお酒を呑む時などに使ってみたいですね。

9.過ごされよ

意味…パーッといきましょう
引用文…「おのおの方は誠忠の鬼でござる。腕も肝も日本一の鬼神の集いでござる。                
     さ、過ごされよ。過ごされよ。」山岡荘八『越後騒動』

こちらもお酒の席での言葉。最初の一杯を交わし合ったところで、「さあ、過ごされよ」の声掛けがあると、今で言う「パーッといきましょう」という意味です。
客人や目上の者には「過ごされよ」とていねいに言い、友人には「過ごせ」とざっくばらんに言ったりします。

10.手もと不如意(ふにょい)

意味…ちょっと当座の持ち合わせが……
引用文…「おごりか」
    「むろん、勘定はおれが持つ」
   「それではおともするか。このところ、手もと不如意でな。酒も飲んでおらん」
(藤沢周平『悲運剣芦刈り』)

「不如意」の原義は「思いのままにならないこと」で転じて「生計が困難なこと」を表します。しかし酒の誘いを断るのに生計の苦しさを理由にして相手をシラケさせるのは武士の恥。そこで「不如意」に「手もと」を付けることで、「手近な所」の意味が加わり、あくまでも当座の持ち合わせがないという、貧乏をむき出しにしない表現になります。
武士のヤセ我慢は、一つの立派な作法なのです。

11.片腹痛い(かたはらいたい)

意味…はたで見ていても恥ずかしい
…引用文「片腹痛い弥次郎め」
    「たわけ!その弥次郎の心の分からぬうぬのほうがよほど片腹痛いわ」
   (山岡荘八『越後騒動』)

「片腹痛い」の語源は「傍ら痛し」で「傍ら」であったのが中世以降「おかしくて片方の腹が痛い」の意味に転化しました。
「はたで見ていても苦々しい、みっともない」という意味で、つまり当人ではない他人が傍らで見ていても赤面してしまうほどみっともない、という意味になります。

12.恐悦(きょうえつ)至極(しごく)

意味…とても嬉しく思います
引用分…「上様にはいつに変わらぬご尊顔(ごそんがん)を拝し奉り、恐悦至極に存じ上げまする」
   (山岡荘八『越後騒動』)

これは大河ドラマなどでよく聞く言葉ですね。
引用分は、越後国高田藩の世継ぎが、徳川四代将軍に謁見(えっけん)した喜びを述べ奉った場面。
満足や喜びを表す侍言葉は「重畳(ちょうじょう)」「祝着(しゅうちゃく)」「恐悦」などががあります。特に「祝着」と「恐悦」はほとんど同じ意味ですが、「祝着」は、元服や年賀などの冠婚葬祭において使われることが多く「祝着(しゅうちゃく)至極(しごく)」と祝いの気持ちを述べます。
「恐悦」の方は、恐れ多さや恭しさが込められており、目上の人や貴人に対して喜びや満足を述べるときに使われます。ほとんどの場合「恐悦至極でございます」と言います。

いかがだったでしょうか。
今回は日常でも使えそうな、武士の決まり文句を12個紹介させて頂きました!
時代劇小説の世界観に少し浸れたのではないでしょうか。
時代劇や時代小説には、今では使わない言葉が多く出てきますので、時折調べないと会話の意味がわからないこともあるかと思いますが、同時に、こんな日本語があったんだなあと面白かったりします。
是非、今の日常でも使ってみては!?

【参考文献】

使ってみたい 武士の日本語     野火迅



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